映画完結で世界が息を呑む『ウィキッド』——なぜ「西の悪い魔女」は生まれたのか?緑の肌の少女が辿った光と影の真実
ウィキッド あらすじを今改めて辿ると、単なるおとぎ話の裏返しという枠組みを軽々と飛び越えていく痛切な人間ドラマに胸を突かれる。『オズの魔法使い』で誰もが忌み嫌った「西の悪い魔女」は、最初から悪として生まれたわけではなかった。翡翠色の肌を持って生まれた孤独な天才少女エルファバと、誰からも愛されることだけを望んだ野心的なブロンドの令嬢グリンダ。映画版二部作のクライマックスを迎え、再び世界中で熱狂を巻き起こしている本作が描くのは、善悪の境界がいかに脆く、他者を「怪物」に仕立て上げる社会がいかに身勝手であるかという冷徹な現実だ。
ブロードウェイの初演から20余年が経ち、劇場のみならず銀幕の客席でこのウィキッド あらすじの真髄に触れた人々が流す涙は、単なるノスタルジーではない。権力による情報操作、声なき少数派の弾圧、そして信じ合った友との取り返しのつかない決裂。ファンタジーの絢爛な衣をまとってはいるが、そこで語られているのは生々しい現代社会の寓話そのものだ。なぜ一人の心優しい少女が、国中から命を狙われる魔女へと身を堕とさなければならなかったのか。その旅路を紐解いていく。
シズ大学の邂逅:正反対の二人が紡いだ「秘密の友情」
物語の幕開けは、祝福と悪意が混ざり合う異様な熱狂だ。「西の悪い魔女が死んだ!」と歓喜に沸くオズの民衆を前に、善い魔女となったグリンダが舞い降りる。民衆の一人から「彼女と友達だったというのは本当か」と問われた彼女の脳裏に、遠い学生時代の記憶が蘇る。
すべての始まりは名門シズ大学のキャンバスだった。生まれつき緑色の肌を持ち、不義の子として実の父からすら疎まれて育ったエルファバ。彼女は重い障害を抱える妹ネッサローズの付き添いとして入学したが、ひょんなことから内に秘めた強大な魔力を学長マダム・モリブルに見出され、特別クラスへと迎え入れられる。一方、天性の愛嬌と計算高さで周囲の視線を独占していたのが、上流階級の娘グリンダ(当時はガリンダ)だった。
部屋の割り当てミスから同室となった二人は、当然のように反発し合う。水と油。傲慢に見えるグリンダの浅薄さと、心を頑なに閉ざすエルファバの頑固さ。互いを軽蔑し「大嫌い(What Is This Feeling?)」と歌い合った二人の距離を縮めたのは、不器用な優しさと、社交界の華やかなダンスホールで起きた痛ましい出来事だった。侮辱の的となったエルファバを庇うようにグリンダが手を取り、奇妙なステップを共に踏んだ瞬間、二人の間に誰にも引き裂けない絆が芽生える。
エメラルドシティの幻影:崇拝された「オズの魔法使い」の冷徹な正体
友情が深まる一方で、オズの国には不穏な暗雲が立ち込めていた。大学で言葉を話す動物の教師たちが次々と教壇を追われ、話す権利を奪われ、檻へと閉じ込められ始めていたのだ。敬愛する山羊のディラモンド教授が理不尽に連行された現場を目の当たりにしたエルファバは、不正義への激しい怒りを燃やす。
やがてエルファバの突出した才能はエメラルドシティの中枢に届き、オズの統治者である「オズの魔法使い」から直接の招待を受ける。有頂天になる二人。自分を認めてくれる偉大な指導者に会えば、動物たちの危機も解決できるはずだ——エルファバは希望に胸を膨らませて緑の都へと向かった。
しかし、待ち受けていた現実はあまりにもグロテスクだった。巨大な機械仕掛けの頭部を操り、全能の神のように振る舞っていた魔法使いは、魔力など一切持たない、ただの口のうまいペテン師に過ぎなかった。彼は民衆を団結させ支配し続けるために、「共通の敵」として無力な動物たちをスケープゴートに仕立て上げていたのだ。エルファバの魔力も、動物たちを監視し弾圧するための道具として利用されようとしていた。
『重力に逆らって』の覚悟:空へと飛び立ったエルファバの宣戦布告
欺瞞を暴かれた魔法使いとマダム・モリブルは、エルファバを懐柔しようとする。「権力と栄光を手に入れろ」と。だが、エルファバの魂は妥協を許さなかった。彼女は古代の呪文の書『グリマーリー』を抱え、塔の頂上へと駆け上がる。
引き留めるグリンダ。「波風を立てず、体制に従えば愛されるのに」と懇願する友に対し、エルファバは首を振る。誰かに好かれるために自分の良心を殺すことはできない。名曲『Defying Gravity(自由を求めて)』の圧倒的な旋律の中、エルファバは黒いマントを翻し、箒に跨って空へと飛び立つ。
体制に楯突いた代償は残酷だった。マダム・モリブルは即座にプロパガンダを発動し、「緑の肌の女は国を揺るがす極悪非道の魔女だ」と全土に指名手配を下す。一方のグリンダは、エルファバと共に逃げる勇気を持てず、宮廷に残り「善い魔女」としてのアイコンになる道を選んだ。二人の運命はここで決定的に分断される。
引き裂かれた運命:国民の偶像となった「善い魔女」と孤立する「悪」
月日が流れ、エルファバは地下に潜伏しながらレジスタンスとして戦い続けていた。かつてシズ大学で出会い、互いに惹かれ合っていたプレイボーイの衛兵隊長フィエロは、グリンダの婚約者となりながらも、エルファバの気高い精神を忘れられずにいた。運命の再会を果たしたエルファバとフィエロは、互いの愛を確かめ合い、共に逃亡することを決意する。
親友の裏切りと最愛の人の喪失に打ちのめされたグリンダは、嫉妬と絶望の中で致命的な提案を口にしてしまう。「エルファバを誘き出すには、彼女の妹ネッサローズを利用すればいい」。
マダム・モリブルが引き起こした巨大な竜巻によって、ネッサローズは空から降ってきた一軒の家の下敷きになり命を落とす。妹の遺骸にすがって号泣するエルファバの前に立ちはだかったのは、あの家に乗ってやってきたカンザスの少女、ドロシーだった。妹の形見であるルビーの靴(舞台版では銀の靴)までもがドロシーの足に渡ったことを知ったエルファバの怒りは、ついに臨界点へと達する。
黄色いレンガ道の裏側:『オズの魔法使い』へと繋がる残酷なパズル
ここから物語は、私たちがよく知る『オズの魔法使い』の裏側のパズルを恐ろしい勢いで埋めていく。
エルファバを救うために自らを犠牲にし、トウモロコシ畑で拷問を受けたフィエロ。エルファバは彼を死の苦痛から救うため、決して傷つくことのない「カカシ」の姿へと変える呪文を唱えた。かつてエルファバを愛しながらもその恋情をネッサローズに歪められ、心を失ったボックは「ブリキ男」に。そして、大学時代にエルファバが檻から逃がした小さなライオンの子供は、恐怖のトラウマを背負った「臆病なライオン」へと成長していた。
すべては、エルファバの悪意によるものではなく、権力の罠と過酷な宿命がもたらした悲痛な結末だった。だが民衆は、彼女を憎むことで自らの正義を保とうと暴徒化し、西の城へと押し寄せる。
もはや逃げ場がないことを悟ったエルファバは、城へとやってきたグリンダと最後の対峙を果たす。憎しみは消え去り、残ったのは互いを思いやる深い魂の交歓だった。歌われるのは『For Good(あなたを忘れない)』。「あなたと出会えたから、私はより良い人間になれた」。
ドロシーが投げつけた一杯の水によって、エルファバの体は煙を上げて溶け崩れ、消滅した——少なくとも、グリンダと民衆の目にはそう映った。
2026年、なぜ私たちはエルファバの叫びにこれほど揺さぶられるのか
城に残されたのは、緑のエリクサーが入った小さな小瓶だけだった。その小瓶を見たグリンダは、あまりにも恐ろしい真実に気付く。それはかつて母が飲んでいたもの。エルファバの実の父親は、他ならぬオズの魔法使い自身だったのだ。自らの血を分けた娘を魔女として断罪し、抹殺した権力者の欺瞞。グリンダはついに魔法使いを国外へと追放し、マダム・モリブルを投獄してオズの国の真の指導者として立つことを誓う。
だが物語の幕切れ、救いの光が静かに灯る。城の床の秘密の扉が開き、水で溶けたはずのエルファバが姿を現す。そこにはカカシとなったフィエロの姿があった。二人はオズの国を永久に去り、誰も知らない遠い地で生きていくことを選ぶ。エルファバが生きていることを、生涯「善い魔女」として偽りの平和を守り続けなければならないグリンダだけは知る由もない。
白と黒、正義と悪の二元論がかつてないほど強固になり、SNSや社会の分断が加速する今、この物語が放つメッセージは痛烈だ。多数派にとって都合の悪い真実を語る者が「悪」と呼ばれ、見栄えのいい嘘が「善」として崇められる。エルファバの生き様は、孤立を恐れずに自分の信念を貫くことの気高さと、その代償の重さを私たちに突きつけて離さない。 (出典: ウィキッド あらすじ(Yahoo!ニュース))