新幹線開業から2年、敦賀の街を巡る「青いバス」の現在地――週末の港町で見えた熱気と賢い乗りこなし
ぐるっと 敦賀 周遊 バスの行先表示板が、朝の柔らかい日差しを浴びてチカチカと切り替わる。北陸新幹線の敦賀延伸開業から丸2年を迎えた2026年、かつて「乗り換えだけの通過駅になるのではないか」と囁かれた懸念をよそに、この港町は着実に独自の回遊ルートを確立しつつある。巨大な新幹線高架の足元に広がる西口バスターミナル。改札口を抜けた旅人たちが吸い寄せられるように列を作るその先には、レトロな車体を揺らして待機する巡回バスの姿があった。
かつて欧亜国際連絡列車が駆け抜け、大陸への玄関口として栄えた敦賀の街並みには、重厚な歴史遺産と海鮮の匂いが今も濃密に入り混じっている。点在する名所を効率よく拾い集める手段として、週末の旅行者たちの間でぐるっと 敦賀 周遊 バスの存在感はこれまでになく高まっていた。レンタカーの手続きをするほどではない、けれど歩き通すには少し広すぎる。そんな現代の「身軽な寄り道」を好む層の受け皿として、この路線は確実に機能している。
新幹線開業バブルの一巡と「二次交通」のリアルな勝算
開業直後の異常な熱気は落ち着いた。だが、それは衰退を意味しない。2026年の敦賀駅前には、浮ついた祝祭ムードの代わりに「旅の解像度」を上げようとするリピーターたちの落ち着いた足取りがある。
新幹線を降りた観光客が直面するのは、地方都市特有の距離感だ。駅から赤レンガ倉庫までは約2.5キロ。歩けなくはないが、天候が崩れやすい北陸の空の下では骨が折れる。そこで選ばれるのがこの周遊バスだ。観光案内所のスタッフは「週末の午前中、新幹線が到着するタイミングに合わせて乗り場へ案内する回数が格段に増えた」と語る。巨大なインフラがもたらした人の流れを、街の隅々まで染み込ませる毛細血管。それがまさにこのバスの役割だ。
氣比神宮から赤レンガ倉庫へ:車窓がつなぐ古代と近代
バスが駅前を離れると、風景は近代的な駅前通りから、歴史の厚みを感じさせる旧市街へと滑らかにシフトしていく。最初の大口下車ポイントは、大鳥居が圧倒的な威容を誇る氣比神宮(けひじんぐう)だ。
芭蕉も訪れたとされる名刹で柏手を打ったあと、再びやってきたバスに乗り込めば、次は海風が吹き抜ける金ヶ崎緑地へと運ばれる。赤レンガ倉庫の重厚な佇まいと、そのすぐ向こうに広がる穏やかな敦賀湾。古代の信仰拠点から明治・大正の鉄道遺産へ、わずか十数分の移動でタイムスリップするような感覚がある。歩道を行き交う人々を眺めながらシートに身を預けているだけで、この街が背負ってきた「境界の港」としての歴史が自然と頭に入ってくる。
海鮮丼の誘惑と「日本海さかな街」をめぐる駆け引き
このバスのルート設定における最大のハイライトであり、同時に乗客の胃袋を刺激してやまないのが「日本海さかな街」へのアクセスだ。
巨大な鮮魚市場には、越前ガニや甘エビ、日本海で水揚げされたばかりの旬の魚が並ぶ。週末の昼時ともなれば、駐車場は県外ナンバーの自家用車で埋め尽くされるが、周遊バスの乗客は駐車待ちの渋滞を横目にスムーズにエントランスへと降り立てる。これが思いのほか快適だ。車内で隣り合わせた関西からの二人組は「昼から地酒を飲むために、あえて車ではなく新幹線とこのバスを選んだ」と笑っていた。移動中にハンドルを握る必要がない自由さは、港町のグルメを味わい尽くす上で最大の武器になる。
フリー乗車券とキャッシュレス:知っておくべき運賃の現在形
乗り降りを繰り返すなら、1回ごとの小銭払いは避けるのが鉄則だ。車内や観光案内所で購入できる「1日フリー乗車券」は、大人500円(※取材時点)。2回から3回乗り降りするだけで元が取れる明快な価格設定が維持されている。
現在ではスマートフォンの画面を提示するデジタルチケットの普及も進み、小銭を取り出す手間はほぼなくなった。ただ、ここで一つだけ旅慣れた人間からの忠告がある。ピーク時の車内はそこそこ混み合うため、乗車前に画面を立ち上げておくこと。現金派ならあらかじめ小銭を用意しておくこと。そんなちょっとした気配りが、乗り降りをスムーズにし、ダイヤの正確さを支えている。
時刻表の隙間をどう埋めるか――待ち時間を楽しむ路上観察
都市部の地下鉄とは違う。周遊バスの運行間隔は、おおむね30分から1時間に1本程度だ。これを「不便」と切り捨てるか、「街の空気を感じる余白」と捉えるかで旅の印象はまるで変わる。
もし停留所で40分の待ち時間が生まれたなら、すぐ近くの路地に足を踏み入れてみてほしい。昆布の加工場から漂う独特の磯の香り、港町ならではの細い路地に並ぶ古民家、地元の人々が通う喫茶店。予定調和の観光地巡りから少しだけ外れた場所にこそ、新幹線開業では上書きされなかった敦賀の本当の生活が息づいている。時間を気にしながら走る旅から、バスの時間に自分のリズムを合わせる旅へ。スピードを緩める楽しさがそこにはある。
終着駅の先へ:単なる移動手段を超えたローカルの息づかい
夕暮れ時、敦賀湾の向こうに夕日が沈み、海面が鈍い銀色から茜色へと変わっていく。すべての行程を終えて再び駅へと向かうバスの車内は、どこか心地よい疲労感と満足感に包まれていた。
運転手はバックミラー越しに後方の安全を確認しながら、降車する乗客一人ひとりに短く「ありがとうございました」と声をかける。新幹線という巨大な国家プロジェクトが敦賀にもたらしたものは大きかったが、旅人の記憶に残るのは案外、こうしたローカルな乗り合い空間で交わされる小さなやりとりなのかもしれない。駅前の巨大なガラス壁の向こうに、東京へ、大阪へと戻る列車の光が見えてくる。車輪の音に揺られながら過ごした半日は、地図の上をなぞるだけでは決して手に入らない敦賀の輪郭を、確かに教えてくれた。 (出典: ぐるっと 敦賀 周遊 バス(Yahoo!ニュース))