あの歓喜から10年――元大関・琴奨菊が「秀ノ山」として角界の常識を塗り替える熱血指導の現在地

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あの歓喜から10年――元大関・琴奨菊が「秀ノ山」として角界の常識を塗り替える熱血指導の現在地
あの歓喜から10年――元大関・琴奨菊が「秀ノ山」として角界の常識を塗り替える熱血指導の現在地
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🎵 あの歓喜から10年――元大関・琴奨菊が「秀ノ山」として角界の常識を塗り替える熱血指導の現在地

琴 奨 菊という不屈の四股名を聞いた瞬間、両手を広げて大きく背中を反らせるあの仕切り姿がまぶたに焼き付いている相撲ファンは多いはずだ。2016年1月場所、日本出身力士として10年ぶりとなる悲願の幕内最高優勝を遂げ、列島を熱狂の渦に巻き込んだあの劇的なドラマから、巡り巡って今年でちょうど10年。満身創痍になりながらも前に出続けたあの男は今、まわしを外し、秀ノ山親方として土俵の外から相撲界の景色を変えようとしている。

朝霧が立ち込める千葉県松戸市の稽古場。荒々しい足音と肉体が激突する鈍い破裂音が、ピリリと張り詰めた空気を切り裂いていく。一見すると伝統的な鍛錬の風景だが、その稽古メニューや弟子たちと向き合う姿勢には、現役時代の琴 奨 菊が苦闘の果てにたどり着いた独自の哲学が色濃く反映されていた。気合と根性だけが美徳とされがちだった世界で、なぜ彼は合理的で先進的なアプローチにこだわるのか。2026年の今、親方として歩むその歩みを追った。

列島を揺るがした2016年初場所――「日本人10年ぶり」の重圧を粉砕したあの日

時計の針を10年巻き戻してみる。当時、大相撲界は白鵬を筆頭とするモンゴル出身横綱が絶対的な強さを誇っていた。賜杯の行方は常に彼らを中心に回り、日本出身力士の優勝は2006年初場所の栃東以来、丸10年間にわたって途絶えていた。「いつになったら日本人の優勝が見られるのか」。ファンの溜息とメディアの重圧が、大関たちの肩に重くのしかかっていた時代だ。

その分厚い壁を真っ向から打ち砕いたのが、当時31歳のベテラン大関だった。初日から怒涛の12連勝。立ちはだかる白鵬、鶴竜、日馬富士の3横綱を力でねじ伏せ、両国国技館に地鳴りのような歓声を巻き起こした。14勝1敗での賜杯抱擁。地元・福岡県柳川市を走る水上パレードに詰めかけた群衆の笑顔は、単なる一力士の勝利を超え、相撲という文化そのものが再び息を吹き返した瞬間でもあった。

代名詞「がぶり寄り」と「琴バウアー」が生んだメンタルトレーニングの先駆

武器は極めてシンプルだった。相手のまわしを引いて腹を密着させ、腰を上下に揺らしながら土俵際へと追い詰める「がぶり寄り」。相手の懐に飛び込み、己の腹に乗せて運ぶ泥臭い取り口は、華麗さとは無縁だったかもしれない。だが、相手の骨がきしむほどの強烈な圧力は、誰にも真似できない絶対的な領域だった。

そして忘れてはならないのが、仕切りの際に見せた背筋を極限まで反らすルーティン、通称「琴バウアー」だ。今でこそアスリートのルーティンやマインドフルネスは常識だが、当時の大相撲界では奇異の目で見られることもあった。プレッシャーで呼吸が浅くなるのを防ぎ、視野を広げ、極度の緊張を集中力へと変換するための科学的アプローチ。批判を恐れず、勝つために必要な手段を貪欲に取り入れる姿勢は、すでにこの頃から確立されていた。

独立から現在へ:松戸の地で蒔かれた「秀ノ山部屋」の種が芽吹くとき

2020年11月に現役を引退。佐渡ヶ嶽部屋付きの年寄として後進の指導にあたった後、独立を果たして千葉県松戸市に秀ノ山部屋を構えた。部屋の立ち上げは、単に看板を掲げることではない。稽古場の土を自ら踏み固め、若い弟子たちをスカウトし、共同生活のルールを一から作り上げる過酷な日々の連続だった。

2024年の本格稼働から月日を経て、部屋の土俵には確かな活気が満ちている。親方自らまわしを締め、胸を出して若い力士を受け止める。土俵脇で見せる眼差しは温かく、それでいて勝負の厳しさを一切妥協しない鋭さがある。かつて自分が流した汗と涙の記憶が、そのまま弟子たちへの確固たる指針となっているのだ。

根性論からの完全脱却――心拍数とデータで挑む令和の力士育成論

秀ノ山部屋の指導法を取材して驚かされるのは、その徹底した近代性だ。むやみやたらに番数をこなすだけの稽古はさせない。稽古中・稽古後の心拍数推移、筋疲労の度合い、睡眠トラッキング、さらには管理栄養士による綿密な食事指導まで導入されている。

「限界まで追い込むことと、怪我を放置することは全く違う」。現役時代、膝や胸筋の断裂など数え切れない怪我と戦い、引退危機を何度も乗り越えてきたからこその言葉だ。相撲本来のぶつかり合いを極限まで突き詰めつつ、選手の身体寿命を延ばすためのロジックを両立させる。このハイブリッドな育成方針に惹かれ、全国から意欲的な若者が門を叩くようになっている。

佐渡ヶ嶽部屋のDNAとライバルたち――琴櫻の躍進に見る絆と刺激

古巣である佐渡ヶ嶽部屋への敬意も忘れていない。大関・琴櫻をはじめとする元同門の力士たちの活躍は、今でも大きな刺激だ。同じ釜の飯を食い、互いに切磋琢磨した仲間たちが土俵の最前線で戦っている姿を見るたび、指導者としての血が騒ぐという。

伝統的な相撲部屋の泥臭い結束力と、自らが新天地で挑戦しているモダンな指導法。その両方を知る秀ノ山親方は、閉鎖的になりがちな相撲界において極めて貴重な架け橋となっている。「佐渡ヶ嶽の看板に恥じない強い力士を育て、いつか本場所の優勝決定戦でうちの弟子と戦わせたい」。冗談めかして語るその瞳の奥には、本物の野心が宿っている。

相撲界の未来図――国境を越えるファンベースと地方創生へのまなざし

土俵の外に目を向ければ、大相撲は今、世界的なコンテンツとしての存在感を急速に強めている。インバウンド需要の爆発、海外配信の定着。その中で秀ノ山部屋は、地域社会への貢献とグローバルな発信を両立させる先頭に立っている。 (出典: 琴 奨 菊(Yahoo!ニュース)

松戸市での地域イベントや学校訪問、故郷・柳川市との継続的な交流活動など、力士が社会とどう関わるべきかを常に模索している。相撲は単なるスポーツではなく、神事であり、日本の誇るべき生き様そのものだ。泥にまみれて前に出続けた元大関の背中は、いまや若い弟子たちだけでなく、変革を恐れずに前へ進もうとする相撲界全体の道標となっている。

琴 奨 菊
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